陳情令 「人生は一人の知己を得れば足りる」

「陳情令」を見た。陳情令は中国の作家墨香銅臭のBLファンタジー小説『魔道祖師』を実写化したウェブドラマである。中国では2019年にドラマ化され再生回数は100億回を超えるメガヒットとなり、世界中に配信された。配信開始から5年経った現在でも、陳情令の話題には事欠かない。このドラマは原作のBL的要素を巧みに回避し、ブロマンス・ファンタジー時代劇として構成されている。主役の二人が強い絆によって結ばれ、知己となっていく物語である。主役の肖戦(シャオジャン)と王一博(ワンイーボー)はこのドラマのブレイクにより一躍中国のトップスターの座に躍りでた。

このドラマが世界中でヒットしたのは、ストーリーの面白さは言うまでもなく、出演俳優のビジュアルの美しさと素晴らしい演技、ため息の出るほど華麗な古装、抒情的な林海のテーマソングなどすべてが揃っていたからといえよう。

「えっ、あんな振袖みたいな袖の長い着物でよく闘えるなあ!袖が絡んで闘えないんじゃないか?」(笑い)と突っ込みをいれながら見ていた。

五大世家が統治している世界で、雲夢江氏で実子同然に育てられた饒舌で自由奔放、正義感の強い魏無羨(ウェイウーシェン)と、姑蘇藍氏の無口でまじめで近寄りがたい雰囲気の藍忘機(ランワンジー)。二人が互いに惹かれ合いながらも衝突し固い絆で結ばれて敵と闘う、というのがあらすじである。二人とも幼いころに両親を亡くし、魏無羨は江氏の宗主に、藍忘機は叔父に育てられた。魏無羨には彼に無償の愛を注ぐ江氏姉の江厭離が、藍忘機には彼を黙って優しく見守る兄の藍曦臣がいた。しかし、それだけでは埋めることのできない孤独と寂しさを二人は抱えていた。魏無羨は姉に甘えることによって心を落ち着かせるが、母親である蔵色散人の名前が出るたびに話を聞きたがった。藍忘機は人々から尊敬と憧憬を集めながら、感情を抑えこみ他人とかかわることを故意に避け孤高の存在となっている。そんな彼に魏無羨だけが積極的にかかわりを持とうとする。当初は無視していた藍忘機であるが、名前を本名*1で呼ばれることを許すなど、徐々に魏無羨の存在が心の内で大きくなっていく。幼いころ月に一度の母親との面会を待ちわびていた藍兄弟であったが、母親が逝ってしまったと理解した後も忘機は縁側に座って扉が開くのを待っていた。藍曦臣が「忘機には執着がある」と言うように、かつて母親に執着したごとく魏無羨に拘るようになる。

「それにしても暮渓山の洞窟で魏無羨にからかわれた藍忘機が、彼の肘に思い切り噛みつくアグレッシブな行動をするほど魏無羨に執着するとは……」

魏無羨がすべての罪を背負い絶望のあまり崖から身を投じて死亡し16年後に復活したときには、前世の彼を全面的に信じなかったことを悔やみ、今度こそ寄り添うことを決意する。そして互いにかけがえのない存在となっていく。

しかしブレイクの要は主役二人の孤独な魂の救済と、大勢に迎合する世論批判にある。魏無羨が現世に戻ったのちも、悪しざまに罵られ誰一人として彼の弁明を聞く者はいなかった。しかし、金光揺の悪の一端が明らかになるや否やあらゆることは証拠があろうがなかろうが彼の所業になる(ただし金光揺のあくどさは言うまでもないが)。そう、かつて魏無羨に向けられたのと同様に。魏無羨は世論の変わり身の早さに唖然として無常を感ずる。しかし藍忘機という生涯の友を得たことで心の平安を得る。

「人生は一人の知己を得れば足りる」。

 

*それにしても中国の俳優は何というイケメンぞろいなのか。

 

 

*1:藍湛。古代中国では、個人の名前には「姓・名・字」があり、一般的には「姓+字」で呼ぶ